店舗内装

飲食店改装の際に必要な検討事項 ~個室をつくる場合~

2023.02.21

店舗を改装する際には、多くの検討事項をクリアしなくてはいけません。
例えば飲食店の場合、来客者数が当初の想定よりも増えれば、個室を増やす必要が出てくるでしょう。ご経験がある飲食店経営者の方もいらっしゃるかもしれませんが、個室を作るには、壁を建てるために様々な業者の方に依頼をしたり、内装に関わる様々な法規に注意を払ったりする必要があります。

これらの項目はいくつか把握することはできても、細かいところまでは分からなくなりがちです。そこで今回のコラムでは、個室の事例をもとに、飲食店改装の際に必要な検討事項を紹介します。飲食店の改装を考えている方は是非確認してみてください。

そもそも壁が出来上がるまで

個室を作るためには壁が必要になってきます。壁は下地を作成し、その下地に仕上げを行うことで出来上がります。まずは 壁を建てるための作業についてそれぞれ確認していきましょう。

飲食店の場合、壁の下地の作りは、軽量鉄骨(LGS)にボード貼りで行うことが一般的です。ボードは耐火、耐水など、部屋の用途に合わせて選定する必要があります。
また、下地を立てる場合は仕上げを行わなくてはなりません。仕上げの種類としては、クロス、シート、塗装、タイル、左官などがあげられます。それらをデザイン、金額、機能性などから、どの素材を用いるのか検討した上で施工することで、ようやく壁が出来上がるのです。


壁の仕上げ例

飲食店改装で個室を作る際に注意すべき関連法規

壁の立て方が分かったからと言って、好きに個室を作れるわけではありません。人が使う部屋は、法律によりその安全性を確保することが求められます(建築基準法では、このように何らかの目的で人が継続的に利用する部屋のことを「居室」と呼びます )。個室を作るためには様々な規則に注意を払わなくてはならないのです。
ここからは簡単にですが、個室を作る際に注意ポイントを確認していきましょう。

内装制限

壁の仕上げの際に気を付けなくてはならないことの一つが内装制限です。内装制限は建築基準法や消防法で規定されており、火災発生時に被害の拡大を防ぐため、天井や壁の仕上げ素材に一定の燃えにくさの基準を設けるものです。
内装制限を受ける場合、例えばクロスだと防火性の高いものを選定する必要があり、結果としてデザイン性の高いクロスを選定できないことがあります。
飲食店の個室の場合、窓や開口部の有無などによって受ける内装制限が変わります。改装で新たに壁を建てる場合には、これまでその飲食店で受けてきた内装制限に変更が出ないか、確認が必要です。

照明・空調の変更・追加

壁を新設する位置によっては、壁が既存の照明や空調に干渉することがあります。その場合、既存の照明や空調を移動したり、新しく照明や空調を設置したりする必要があります。またスイッチの設置箇所についても再検討が必要になります。

換気設備の変更・追加

建築基準法では、居室の換気量として一人当たり20㎥/hを確保することが規定されています。また一人当たりの専有面積も10㎡以内と規定されています。
そのため個室を作る場合は基本的に窓などの換気口が必要になります。自然換気が難しければ、個室に換気設備を取り付ける必要があります。

スプリンクラーの変更・追加

スプリンクラーの設置は消防法によって規定されています。建物の用途、階層、面積など、一定の条件を満たす場合はスプリンクラーの設置が義務になります。また、壁が立つことで散水が届かない床面が発生する場合は(このような状況を散水障がいと言います)、スプリンクラーの追加設置が必要です。
更に、スプリンクラーの設置基準は各自治体によっても異なる場合があります。そのため、消防法の他にも各都道府県の火災予防条例を確認しなくてはなりません。

排煙設備の変更・追加

排煙設備は建築基準法、消防法によりその設置が規定されています。外壁に面する個室の場合は窓による排煙ができますが、窓がない個室では機械排煙を行う必要があります。ただし条件によっては、天井に不燃材・準不燃材を利用するなどの工夫で免除規定を受けられる可能性もあります。

非常用照明設備の変更・追加

非常用照明とは、火災などで停電した際に安全に避難するための照明設備です。非常用照明は、建築基準法によりその設置が規定されています 。飲食店の場合、ほとんど全ての店舗において、個室や通路などに非常用照明を設置しなくてはなりません。
個室を作る際に、壁を建てることで十分な照度を確保できない空間が発生する場合は、追加で非常用照明設備を設置する必要があります。


非常用照明設備

非常放送設備の変更・追加

非常放送設備は消防法によってその設置が規定されます。収容人数が一定規模以上の飲食店や、地下及び無窓階にある飲食店では、非常放送設備の取り付けが必要になります。
非常放送設備が必要な飲食店の場合は、個室を新しく作ると、スピーカーなどの非常放送設備も新たに取り付けなくてはなりません。

避難誘導灯の変更・追加

避難誘導灯の設置基準は消防法により規定されています。避難誘導灯も新規の壁の立ち上げによって新たに設置の必要が出ることがあります。
例えば誘導標識の場合、壁を建てることで元の誘導標識が見えなくなることが考えられます。そのような場合は、新たに別の誘導標識を追加しなくてはなりません 。

自動火災報知設備の変更・追加

自動火災報知設備の設置は消防法で規定されており、一つの警戒区域内に、一つの火災報知器を必ず設置する必要があります。警戒区域は天井を遮る壁や垂れ壁などによって分割されますが、個室を追加すると壁によって天井が仕切られるため、そこに新規の火災報知器を取り付けなくてはなりません。
一方で、火災報知器を追加しなくても問題ないケースもあります。例えば、個室の壁上部が空いていれば警戒区域が分割されません。そのため完全な個室にしないという手法も有効です。


自動火災報知設備における警戒区域の考え方

飲食店改装の具体例:1つの部屋を2つの個室にわける場合


事例:改装して個室を作る際に考慮するポイント

ここでは具体例を見ながら、改装の際の注意点を確認してみましょう。図の左側が個室を作る前の平面図です。ここに、上から2列目の照明ユニットの箇所で壁を建て、2つの個室にしようと思います。さて、どのようなポイントが出てくるでしょうか。

照明との干渉

まず分かりやすいのは、照明との干渉問題でしょう。平面図を確認すると壁を建てる位置に照明ユニットが重なっています。壁と当たらない位置に照明器具を移動させなくてはいけません。それに付随して、スイッチの位置も再検討が必要かもしれません。

個室別に必要な設備

また新たな個室ができたため、個室ごとに設置義務がある設備は追加が必要です。火災報知器や非常放送用スピーカーは個室ごとに必要な設備なので、それぞれ新設することになるでしょう。

スプリンクラーの新設

更に、スプリンクラーの設置も検討の必要がでてきます。壁を建てる箇所の上部を見ると、散水が届かない空間(これを「未警戒範囲」と言います)ができています。この空間をなくすためにスプリンクラーを追加しなくてはなりません。

この他にも空調設備と排煙設備の追加設置の検討や、新たにできた個室の換気や採光についても確認などが必要です。飲食店の改装を行うには、規定だけでなく、そもそもの居心地の良さにも気を配らなくてはならないのです。

飲食店改装の費用感は見えづらい

ここまで個室を一例に、改装の際の検討事項を確認してきました。個室を作るには様々な法規や制限が関わってきます。そのための費用も、飲食店の単純な坪単価や立てる壁の面積だけで単純に計算できないことがあります。飲食店の改装を検討する際は、経験の豊富な専門の会社に依頼することがおすすめです

店舗改装の注意点は設計施工会社にご相談を

改装は設計に関わる問題です。そのため、工事だけを請け負う会社だと全ての相談は難しいことがあります。中間に設計会社を入れる手もありますが、おすすめは設計から施工まで一貫して行える会社への相談です。設計から施工までワンストップで請け負える会社なら、相談事のイメージも伝わりやすく、結果として話が進みやすいでしょう。

中央宣伝企画は、設計施工まで一貫して行っております。現在の飲食店について「こんな個室を作りたい」「こんな改装をしたい」といったご要望などございましたら、是非ご相談ください。
コラムでは、今後も飲食店のレイアウトデザインについて解説していきます。今回の内容について「もっと知りたい」と思った方は、以下のページもご覧ください。

参考文献

・商業建築法規研究会編, 2004年『商店建築・店づくり法規マニュアル』, 商店建築社
小山 琢

小山 琢

中央宣伝企画株式会社